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大阪地方裁判所堺支部 平成10年(わ)259号 判決

主文

被告人を懲役二年六月に処する。

未決勾留日数中二三〇日を右刑に算入する。

理由

(犯罪事実)

被告人は、中国人であるA、B、C及びDが、パチンコ店に侵入し、パチンコ遊技機設置のロムを窃取することを共謀の上、平成九年一一月二五日午前四時ころ、B及びDが、大阪府堺市《番地略》所在のパチンコ店「甲野」女子便所窓から、乙山実業株式会社代表取締役Eが看守する同店内に侵入し、同所において、E管理にかかるパチンコ遊技機設置のロム四個(時価一二万円相当)を窃取し、逃走しようとした際、Bが同店に立ち寄った出入り業者の従業員F(当時二六歳)に発見、追跡され、同日午前五時ころ、同市鳳西町二丁一番地の一所在のレストラン「ボンズ」先路上で取り押さえられたことから、Aが、そのころ、同所において、Bの逮捕を免れるために、Fに対し、所携の特殊警棒(平成一〇年押第九三号の1はその一部)で、頭部等を数回殴打する暴行を加え、その際、右暴行により、同人に通院治療約七日間を要する頭部打撲、頭皮裂創及び両手甲打撲挫創の傷害を負わせた際に、Aら四名が「甲野」に侵入しロムを窃取することを知りながら、右四名を乗せた普通乗用自動車を運転して「甲野」まで走行した上、右侵入し窃取する間、付近に待機し、さらに、右窃取後、AがBの逮捕を免れるためFに暴行を加えるであろうことを知りながら、Aを同自動車に乗せて「ボンズ」先路上まで走行した上、右暴行の間その場に待機し、AがBの奪還に成功するや右両名を同自動車に乗せて逃走し、もって、Aら四名の建造物侵入及びAの強盗致傷の各犯行を容易ならしめてこれを幇助したものである。

(証拠)《略》

(補足説明)

一  本件公訴事実の要旨は、被告人が、A及びBほか二名と共謀の上、判示「甲野」に侵入し、ロムを窃取した上、BがFに取り押さえられるや、Aと共謀の上、Bの逮捕を免れるため、Fに暴行を加え傷害を負わせたというものであり、検察官は、被告人について建造物侵入及び強盗致傷(事後強盗致傷)の共同正犯が成立する旨主張する。

他方、弁護人は、被告人については、強盗致傷罪は成立せず、建造物侵入及び窃盗の幇助犯が成立するに留まる旨主張し、被告人もこれに沿う供述をする。

そこで、判示のとおり建造物侵入及び強盗致傷(事後強盗致傷)の幇助犯を認定した理由について、補足して説明する。

1  取調べ済みの関係各証拠によれば、次の事実が認められ、これに反する証拠はない。

(一) 被告人は、平成九年三月ころ、大阪府大阪狭山市内にあるパチンコ店で、中国人の「G」という男と知り合いになり、携帯電話の番号を教えたところ、同年七月ころ、Gからの紹介であるとして中国人のAから電話があり、中古車店の紹介等を頼まれ、以後親しくつきあうようになった。

(二) Aは、かねてより、親方の指示により不正なロムが取り付けられたパチンコ台で特殊な打ち方をして不正にパチンコ玉を窃取し、これを換金してその一部を報酬としてもらうといういわゆる「打ち子」をしていたが、より多額の金を得たいと考え、同年一〇月ころから、同じ福建省出身で友人のB及びCとともに、パチンコ店に侵入し、正規のロムを盗み、不正のロムと付け替えることを相談した。そして、同月末ころには、ロム交換の技術を持つ中国人のDが仲間に加わり、昼間にパチンコ店を下見し、侵入及びロム交換のしやすそうなパチンコ店を見つけたら、夜にロム交換に行くこととし、Aが侵入役、Dがロム交換役と決まった。

(三) Aらは、下見や犯行の際に使用する自動車の運転手役として、土地勘のある日本人を仲間に入れようと考え、Aが、同月中旬ころ、被告人に対し、前記の犯行計画をうち明けた上、一回につき二万円の報酬で運転手役をして欲しいと依頼した。被告人は、Aらの行為が正規のロムの窃盗に当たることがわかったが、報酬欲しさからこれを承諾した。そして、同月下旬には、Aから仲間としてB及びCを紹介され、さらに、同年一一月中旬にはDを紹介された。ただし、被告人は、A以外の三名の中国人については、その姓しか知らず、Aら四名の間の役割分担についても知らされていなかった。

(四) Aらは、同年一〇月末ころ以降、ほぼ毎日、被告人の運転する自動車で、大阪府や近隣の府県のパチンコ店を下見して回り、その数は数百件に及んだ。Aらは、このうち一〇回程度は、目星をつけたパチンコ店に夜間再度赴き、侵入盗を試みたが、いずれも失敗した。なお、下見や侵入の際、被告人自身は、パチンコ店の中に入らず、いつも付近に停めた自動車の中で待っていた。

(五) また、被告人は、同年一一月中旬ころ、Aらが、犯行に使用する車両、下見に行くパチンコ店を探したり目星を付けたパチンコ店を登録しておくためのカーナビゲーションシステム(以下「カーナビ」という。)及び防犯用の熱感知センサー対策のアルミシート(ただし、被告人はその使用目的や使用方法について何ら聞かされていなかった。)等を購入する際に、同人らを店へ連れて行き、同人らに代わって従業員と対応するなどし(代金はすべてAが支払った。)、購入したカーナビゲーションシステムの取付けや操作、目星をつけたパチンコ店の登録等を行った。さらに、被告人は、Aの求めに応じて、自己及び妻名義の携帯電話をAに貸し与えた。

(六) 同年一一月一五日ころ、Aらは、判示のパチンコ店「甲野」へ赴き、被告人以外の四名が店の中へ入り下見をした(その間、被告人は車内で待機していた。)結果、場所、侵入口、パチンコ台の種類等から犯行が容易であると判断し、実行することとした。そこで、Aは、被告人に指示して「甲野」をカーナビに登録させた。

(七) 同月二三日、Aは、B、C、Dとともに、防犯用の熱感知センサー対策のため、前記購入したアルミシートを筒状に細工して、犯行の準備をした。

(八) 同月二四日、Aらは、被告人の運転で再度「甲野」に行き下見をした(この時も被告人は車内で待機していた。)上、その日の深夜に犯行に及ぶことを決め、Aが被告人にその旨を告げた。そして、いったん解散した(その際、被告人は、昼間の分の報酬として、Aから二万円をもらった。)後、改めてAから被告人に翌二五日午前一時に迎えに来るようにとの電話連絡があった。

(九) 被告人は、Aら四名を車に乗せ、同月二五日午前二時前ころ「甲野」に到着した。被告人が、あらかじめ指示されていた場所に車を停めると、Aら四名が降車した。

Bが「甲野」の女子便所の窓枠とガラスを外し、午前四時ころ、BとDが店内に侵入し、AとCは付近の路上等で見張りをし、被告人は路上に停めた車の中で待機していた。なお、被告人は、格別、車外へ出て辺りを窺う等の行為はしなかったが、警官や警備員が来た場合には、携帯電話等でAに連絡するつもりでいた。

(一〇) BとDは、午前五時前ころ、正規のロムを取り外して不正なロムを取り付け、正規のロムを窃取して、侵入した窓から出てきたところ、ちょうどその時、パチンコ台のデータ回収のため「甲野」にやって来たFに発見された。

Fは、逃走するBらを追いかけて、停車している被告人運転の車両の横を走り過ぎたが、その様子を見て、被告人は、Bらがパチンコ店の店員に見つかり追いかけられているのがわかった。

そのとき、Aが助手席に乗り込み、車を出すよう指示したので、被告人は車を発進させたが、程なくして、Aの携帯電話にBから連絡があり、Aは被告人に対し、車を戻すよう指示した。

被告人は、Aの言葉が「捕まった。さっきの場所戻って。」と聞こえたため、Bか誰かが店員に捕まったので助けに戻るのだと思い、大阪府堺市浜寺南町三〇八番地の二浜寺南町三丁交差点でUターンし、「甲野」へと向かった。

(一一) 一方、Fは、いったんBとDを見失ったが、間もなくBを発見し、同市鳳西町二丁一番地一所在のレストラン「ボンズ」先路上で同人を取り押さえ、路上に引き倒した。

(一二) 被告人及びAは、同市鳳西町三丁五番地付近まで戻ったときに、前方の「ボンズ」先路上で、Fに取り押さえられているBの姿を認めた。Aは、被告人に指示してFとBの横あたりに車を止めさせると、Bを助けるため、車の助手席ポケットから特殊警棒を取り出し、これを手に車外へ出た。

(一三) Aは、Fに対し、「離せ」と怒鳴った後、特殊警棒で頭部を四、五発殴りつけ(右暴行によりFは判示の傷害を負った。)、抵抗できなくなったFがBから手を離したすきに、Bとともに車へ乗り込んだ。その間、被告人は、エンジンをかけた状態でその場に車を停めて待機していたが、AとBが乗り込むや、直ちに車を発進させ、逃走した。

(一四) その後、被告人は、Aらをその自宅付近に送って行き、別れる際、Aからこの晩の分の報酬として二万円をもらった。なお、被告人は、この日Bらがロムの交換に成功したか否か、盗んだロムの処分等については、何も聞いていない。

(一五) 被告人は、本件以後も同年一二月中旬ころまで、同様に運転手役を務め、合計で一五〇万円から二〇〇万円程度の報酬を得た。

(一六) 捜査機関は、現場に遺留されたアルミシートからAの指紋が検出されたことやFの目撃供述から、Aが本件の犯人であるとの疑いを抱き、Fが記憶していた犯行使用車両のナンバーから、Aに右車両を販売した中古車販売業者を割り出し、同人の事情聴取の結果、被告人がAを紹介した事実が判明した。そのため、捜査機関においては、被告人が「打ち子」か何かでAらと行動を共にしていると判断し、被告人の自宅付近の捜査や右車両及び被告人の所在捜査を実施し、車両発見後の張り込みにより、Aを逮捕した。そして、その後も被告人の所在捜査を続けた結果、所在が判明したため、参考人として警察への出頭を要請し、平成一〇年四月二七日、出頭してきた被告人にAとの交際状況を聴取したところ、被告人は、運転手として本件犯行に関与していたことを進んで自供した。ちなみに、この時点では、Aは、被告人が運転手役であったことを未だ供述しておらず、運転手役はCである旨供述していた。

2  以上の認定事実によれば、Aについて建造物侵入罪及び(事後)強盗致傷罪が成立することは明らかである。

3  そこで次に、被告人の罪責について判断する。

(一) 建造物侵入、窃盗についての共同正犯の成否

(1) 前示認定事実のうち、

<1> 被告人は、Aから同人らがパチンコ店に侵入してロムを窃取することを聞き、それが犯罪であることを十分認識しながら、Aの依頼に応じて運転手役を引き受け、本件犯行の約一か月前から約一か月後まで毎日のように、パチンコ店の下見あるいは侵入の際に、Aらを車で現場まで運び、行動を共にしていたこと、

<2> そして、それにより合計約一五〇万円から二〇〇万円の報酬を得ていたこと、

<3> A以外の仲間についても紹介を受けていること、

<4> 犯行に使用するための車両を仲介し、携帯電話等を貸し与え、カーナビや防犯用熱感知センサーの対策用のアルミシート等の犯行やその準備に使う道具をAとともに買いに行ったこと、

<5> カーナビの取付け、操作、侵入予定のパチンコ店の登録等はもっぱら被告人が行っていたこと、

<6> 本件犯行当日もAらを「甲野」へ運び、同人らを降ろすと、現場で待機し、警官や警備員が来た場合には、携帯電話等でAに連絡するつもりでいたこと、

<7> 本件窃盗は、パチンコ店のパチンコ台のロムの交換という特殊な犯行であり、そのためにパチンコ台の機種、侵入に適した場所や建物の構造等を入念に下見した上で敢行する必要があるところ、郊外のパチンコ店であることや犯行に前記アルミシート等の道具が必要であることなどから、犯行には車が必要不可欠であること、

<8> 他の共犯者らは言語や地理に疎い中国人であるのに対し、被告人のみが日本人で地理やカーナビの扱いにも精通していること、

等の事実は、いずれも、被告人が本件建造物侵入及び窃盗の共同正犯であることを推認させる有力な間接事実である。

(2) しかしながら、他方、

<1> 右<4><5>は犯行の準備行為であり、<6>についても、搬送行為は実行行為そのものではない上、被告人の見張りとしての役割も、前記1(九)のとおり、AとCが見張り役を務めていたことや被告人がほとんど車から出ていないこと等に照らすと、極めて限定的なものにすぎないとみるのが相当であり、被告人が実行行為を行ったとするのは疑問であること、

<2> 共犯者間の役割分担、犯行場所、日時等は、すべてAら四名が謀議して決定しており、被告人は、一度も右謀議に参加していないこと、

<3> パチンコ店の下見の際も、被告人はほとんど店内に入っておらず、車内で待機していたこと、

<4> 前記犯行使用車両、カーナビ、アルミシートの購入代金はいずれもAが支払っており、被告人は、その費用を何ら分担していないこと、

<5> 被告人への指示はほとんどAが行っており、被告人は、A以外の三名については、姓しか知らず、自分以外の者の役割分担についても何ら知らされていないこと、

<6> 共犯者間での被告人の地位又は支配関係をみるに、被告人は常にAの指示にしたがって行動しており、一貫して従属的であること、

<7> 被告人の報酬は、建造物侵入・窃盗の着手の有無、成否にかかわらず、運転手役一回につき二万円の定額であり、窃盗が成功した場合に利益の配分を受けるものとはされていないこと、また、被告人がこれを要求したこともないこと、

等からすると、被告人については、共謀共同正犯の成立要件である「実行行為者の行為を自己の犯罪の実現のために利用する意思」及び「実行行為者に対する支配的地位」の存在を認めることは困難であり、幇助犯が成立するに留まるとみるのが相当である。

(二) 事後強盗(致傷)についての共同正犯の成否

(1) 被告人は、AがFに暴行を加えている間、終始車の中におり、車外に出ていないから、実行共同正犯が認められないことは明らかである。

(2) そこで、共謀共同正犯の成否について検討する。

<1> 前記一(一〇)(一二)のとおり、被告人は、Aから車を戻すよう言われた際、同人の言葉から、仲間のうちのだれかが捕まったので、それを助けるために現場に戻るよう指示されたと理解し、車をUターンさせたものであるところ、判示レストラン「ボンズ」付近に到着した際には、被告人及びAは共に、Fに取り押さえられているBを目撃していることに照らすと、遅くともこの時点では、被告人とAはいずれも、BがFに捕まった事実について共通の認識を有していると認められること

<2> 当時の心境について、被告人は、検察官調書(44)及び警察官調書(31、39、40)において、「仲間の一人が警察に捕まったならば、自分のことも警察にばれて逮捕される、そうなると家族に迷惑がかかると思い、Bを助けようと思った。」旨供述しているところ、右の供述は、その場の客観的状況、被告人のそれまでの行動や被告人とA及びAとBの関係等(A及びBらがパチンコ店への侵入盗を目論んでいることを知りながら、本件以前に既に約一か月間にわたり同人らと共に下見に回るなどして行動を共にし、被告人自身又は妻の携帯電話をAに貸し与える等していたことから、Bをこのままの状態で放置した場合、Bは警察に逮捕され、Bから被告人の関与が警察に知られるおそれがあり、仮にB自身からは被告人の名前が出ないとしても、同郷人であるAの関与が明らかになる可能性は高く、そうなれば、被告人の関与も明らかになるといった事情)に照らし、極めて自然かつ合理的で十分信用できること(これを否定する被告人の公判供述は、かえって不自然で採用できない。なお、弁護人は、右各供述調書の任意性をも争うが、被告人は、前記1(一六)のとおり、平成一〇年四月二七日、警察の要請に応じて出頭した際、自発的に自らの関与を供述しているところ、その際にも右と同旨の供述をしているのであって、このことに照らしても、供述の任意性に何ら疑いの余地はない。)

<3> そして、右のような主観的意図の下で、前記1(一二)(一三)のとおり、被告人は、Aの指示に従い、FとBの横あたりに車を止め、その後直ちに、Aが、特殊警棒を手に車から降り、Fに暴行を加え、間もなくBの奪還に成功しているところ、その間、被告人は、エンジンをかけた状態でその場に車を停め、AとBが車に乗り込むや、直ちに車を発進させてその場から逃走していること

以上によれば、被告人は、BがFに取り押さえられているのを認めた時点で、AがBを奪還するために車外に降り立ち、Fに対し何らかの暴行を加えることを、少なくとも未必的に認識した上で、これを容易にすべく行動しているものと認めることができる。

そこで、右のような被告人の主観的意図及び客観的行動をもって、事後強盗(致傷)の共同正犯の行為と認めることができるかについて検討するに、確かに、右<2>の被告人の意思内容は、自らの利益のためにAと行動を共にしていることを示すものであり、正犯性を推認させる一つの事実であることは否定できない。

しかしながら、他方、被告人は、この場面においても、一貫してAの指示に従って行動しているにすぎず、その関与の仕方は常に従属的かつ消極的であることに照らすと、未だ「実行行為者に対する支配的地位」にあるものとは認め難く、共謀共同正犯の成立を肯認するには躊躇せざるを得ない。

(3) 次に、幇助犯の成否について検討する。

前示のとおり、被告人は、窃盗犯人であるAが、共犯者であるBの逮捕を免れさせるために、Fに対し暴行を加えることを認識した上で、Aの犯行を容易にする行為に及んでいるのであるから、これが、少なくとも、Aの事後強盗(致傷)に対する幇助行為に当たることは明らかである(傷害の結果についての認識がないことは、右犯罪の成立に影響しない。)。

ところで、本件は、窃盗の幇助犯が、正犯者の事後強盗致傷罪(奪還行為)を幇助した場合であるが、事後強盗罪は、窃盗犯人たる身分を有するものが刑法二三八条所定の目的をもって、人の反抗を抑圧するに足りる暴行、脅迫を行うことによって成立するいわゆる真正身分犯であるところ、同罪の趣旨、罪質、法定刑等に照らすと、同条の「窃盗」には幇助犯は含まれないと解するのが相当であるから、結局、被告人については、刑法六五条一頃、六二条一項により、事後強盗致傷罪の幇助犯が成立する。

(三) まとめ

以上によれば、被告人の行為は、建造物侵入及び窃盗の幇助罪と事後強盗致傷の幇助罪に該当することになるが、事後強盗罪の罪質や、右幇助行為が、いずれも犯行に使用した車両の運転行為であって、時間的にも場所的にも近接した一連の行為であることにかんがみれば、窃盗の幇助罪は事後強盗致傷の幇助罪に吸収されると解することができる。したがって、結局、被告人については、建造物侵入及び事後強盗致傷の幇助罪が成立する。

以上のとおり、検察官及び弁護人の主張はいずれも採用しない。

二  自首の成否

弁護人は、被告人について自首が成立する旨主張するので検討するに、前記認定事実(一1(一六))によれば、被告人が警察に出頭した平成一〇年四月二七日の時点では、捜査機関において、被告人とAとが何がしかの交友関係にあることは把握していたものの、被告人の本件犯行自体への関与を疑っていたものではないから、その段階で、被告人が、捜査官に対し、自ら進んで本件犯行の際の運転手役を務めたことを供述している以上、自首の成立を認めるのが相当である。

(法令の適用)

罰条

建造物侵入幇助の点 刑法六二条一項、一三〇条前段

強盗致傷幇助の点 刑法六五条一項、六二条一項、二四〇条前段(二三八条)

科刑上一罪の処理 刑法五四条一項後段、一〇条(重い強盗致傷幇助罪の刑で処断)

刑種の選択 有期懲役刑を選択

法律上の減軽 刑法六三条、六八条三号

酌量減軽 刑法六六条、七一条、六八条三号

未決勾留日数の算入 刑法二一条

訴訟費用の不負担 刑訴法一八一条一項ただし書

(量刑の理由)

本件は、中国人窃盗グループが、いわゆる裏ロムを設置すべくパチンコ店へ侵入し、正規のロムを窃取した後、逃走する際に、一味の一人が右パチンコ店の関係者である被害者に取り押さえられたため、他の一人が、右取り押さえられた仲間の逮捕を免れるべく、被害者に暴行を加え、負傷させたという建造物侵入及び強盗致傷の犯行に際して、被告人が、運転手役を務めるなどして右犯行を容易にしたという建造物侵入幇助及び強盗致傷幇助の事案である。

被告人は、一回につき二万円の報酬欲しさから、安易に運転手役を引き受けたものであり、動機に酌むべきところはない上、犯行の準備段階から一味に深く関わり、唯一の日本人として、地理や言語に疎い他の共犯者らを助け、さらに、Aが何ら落ち度のない被害者Fに対し暴行を加えるであろうことを知りながら、Aを犯行現場まで搬送する等してその犯行を容易にしたものであり、幇助犯とはいえ、その役割は重要である。また、被告人は、本件犯行の約一か月前から毎日のように本件車両を運転してAらの下見に同行した挙げ句、本件犯行に及んだ上、その後も約一か月の間同様の行為を続け、総額一五〇万円余りの多額の報酬を受け取っており、規範意識の鈍磨が甚だしい。これらのほか、近時、外国人らによるパチンコ店を狙った同種の犯行が多発していることにも照らすと、後述する有利な事情を考慮してもなお、被告人に対しては、実刑をもって臨まざるを得ない。

しかしながら、他方、被告人は、もとより幇助犯であり、実行行為は行っていない上、その関与の仕方も一貫して消極的であること、被害者Fの負傷の程度は、比較的軽微であること、被告人が、警察の要請に応じて出頭した際、進んで本件犯行を自供しており、自首の成立も認められること、長期間の身柄拘束の間に、更に反省の情を深め、弁護人を通じてFに対し被害弁償金二〇万円を交付したこと、これまで前科がないこと、被告人の帰りを待つ妻子がいること等の有利な事情も認められるので、幇助犯による必要的減軽に加えて、酌量減軽もした上で、主文のとおり量刑した次第である。

(求刑 懲役五年)

(裁判長裁判官 古川 博 裁判官 浜本章子 裁判官 森脇江津子)

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